カフェとライター
矢継ぎ早に言い、興奮している編集長がこんなに嬉しそうに喋っているのをみたのは久しぶりだ。
私をスカウトしてくれた時以来…いや、それ以上だ。
それだけ、工藤戒李には力があるのだろうことを思い知る。
状況の理解が追いつかない。
とりあえず、彼との仕事を任された、と言うことだ。
それも、ずっと依頼してきて、断ってた?
他の会社も狙ってた企画を。しかも何故か私指名で。
≪これからよろしくね、≫
表情は楽しそうに。冷たい目を向け、私にそう告げてきた顔を思い出す。
彼はあの時、
こうしようと思ったのだろう。
渡した名刺、会社、雑誌名…あの時少し考えていたのはこれのことだったのだろうか。
それでーーこれからよろしく、と。どうして彼が仕事を受けたのか、私を指名してきたのかわからない。編集長はきっと松村さん繋がりでの手柄だと思っているのだと思う。
まさか、たまたまの知り合いで再会して、昨日のあの会話があってからのこれだとは思わないだろう。
説明も…できない。
「あの、私…、」
そんな、大層な仕事、
できないです。ダメ元でそう伝えようと思ったけれど、編集長の圧は強かった。
「これから忙しいぞ!工藤戒李の密着は、しっかり準備しないと!水野さん工藤戒李のことどこまで知ってる?」
「え、あ、」
「とりあえず可能な限り全部目を通して叩き込んで行ってもらおう!頼んだよ!」
どんどん動いていく展開に、
…拒否権、なんて。
発動できる空気じゃなかった。
仕事の内容は、こうだ。1ヶ月密着。
その様子を予定では雑誌で3ヶ月間に渡り連載。
反応を見て、
連載やページ数を調整していくとのことだった。
事前の工藤戒李側の事務所との打ち合わせでは、
その1ヶ月の密着の間、彼にはCM撮影、ドラマ撮影、映画撮影、広告撮影プロモーション活動。
そして控えてるライブのリハーサル等があると教えられた。
そのスケジュール一覧を受け取り、新聞かのようにびっしり分刻みに刻まれたスケジュールを見て、売れっ子を目の当たりにした。
…休み、1日もない。そして私も基本密着、とのこと。つまり、私もこのスケジュールで動くということ。
小百合さんには
事前に編集長から連絡がいっていたようで。
報告する前に了承してくれた。
会社をかけた大事な企画みたいだから力を貸してあげて、と小百合さんに言われたらもうどうしようもない。
会議室、という名の工藤戒李関係の資料を集めるだけ集めた書庫に缶詰にされて。
ある程度の基礎知識を入れてくれと言われた。
だけど、そんなすぐに頭に入るわけがない。頭にはどこまで入ったか分からないけれど、デビューしてから、今までの資料も目を通せるだけは通した。