【WEB版】空っぽ聖女と婚約破棄されましたが、真の力が開花したのであなたなんてこちらから願い下げです!~義姉に全て奪われたけど、銀竜公爵からの溺愛が待っていました~
 にわかに信じられず、リュミエールはレクシオールの両親が眠る墓石に視線を投げた。確かにその表面に綴られているのは彼の名前だ。
 
 しかし……聖女の血筋であり不可思議な現象に慣れ親しんでいる彼女ですら、死者の魂が他のものに宿り、またそれが語りかけてくるなどという話は聞いたことが無い。

(これ……呆けるでない)
(すっ、すみません……でも本当に、本当なのですか?)

 気が抜くとそのまま声を出してしまいそうで……。
 口を両手で覆いながらリュミエールは膝の上の小公爵と頭の中で会話を続けてゆく。

(コーウェンとして生きた四十年余りの記憶は私の中にある。真実は分からないが……両親を立て続けに失った息子を憐れに思い、神があやつの成長を見守る時間を与えくださったのだと、私はそう思うことにした。幸い、良き臣下や友人に恵まれ、あやつはなんとかやっていけるようになった……それは喜ばしいことだ。だが……)

 フレデリクがいつも彼のことを気にかけていたのは、その時のことがあったからなのだと、リュミエールは納得する。

 だがあの気のいい青年も、「いつまでも彼のそばにいてやることはできない」と話していた。いつかは別れの時が来るし、自分では彼の深い心の傷を癒してやることはできないと悟っていたのかも知れない。

< 186 / 341 >

この作品をシェア

pagetop