【WEB版】空っぽ聖女と婚約破棄されましたが、真の力が開花したのであなたなんてこちらから願い下げです!~義姉に全て奪われたけど、銀竜公爵からの溺愛が待っていました~
 だが……湯気の立つ温かい紅茶と共に出されたアップルパイをしげしげと眺め、彼はふっと表情を崩した。

「フォークをお使いになりますか?」
「いや、いい……こうして食べたいんだ」

 レクシオールはケイティから手拭きを受け取り、そのまま端をつかんでかぶり付く。

 貴族らしからぬ無作法な食べ方だったが、何故かそれは今の彼の笑顔に良く似合っていた。

「どうですか?」
「……うん、美味い。もう一つもらえるか?」
「はい、いくらでも」

 彼の食べっぷりを見て、リュミエールはほっとする。
 
 前公爵コーウェンの妻であったレジーナも、元気だった時は同じように家族との時間を大切にしていたようだと、周りの人々から聞く事ができた。

 レクシオールにとって両親と過ごした時間は、辛いことも多かったのだろうけど……でも大切な記憶があったのなら、それは忘れないでほしい。

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