【WEB版】空っぽ聖女と婚約破棄されましたが、真の力が開花したのであなたなんてこちらから願い下げです!~義姉に全て奪われたけど、銀竜公爵からの溺愛が待っていました~
 この喜びよう、日ごろから音楽に親しんでいるのは確からしい。
 私が勧めるまま、二人は手慣れた様子で楽器を手に取ると視線を交わし合う。

「あれなんかどうかしら、ケイティ……『空舞う銀の翼』!」
「いいですね! では早速いきましょうか!」

 それを聞いて、つい私は意地の悪い笑みを浮かべてしまった。

 『空舞う銀の翼』――祖国を守りし偉大な竜の功績をたたえて作られたとされる賛歌。

 つまり、竜を始祖にもつと(うた)われるハーケンブルグ領では、もっと馴染み深く愛されている曲の一つなのだ。もちろん私もよく聞いており……そんじょそこらのことでは驚かない自信があるので、高をくくって曲の始まりを待ち受けた。
 
 ――だが、予想外であった……。

 軽やかな調べから始まったそれは、美しく澄み渡る空と翔る竜のイメージを鮮明に呼び起こし、心を奪われた私は演奏が終わるやいなや、思わず大きな拍手を送ってしまっていた。

「素晴らしかったですわ!! この曲を聞き慣れたわたくしをこんなにも驚かせて下さるなんて! 公爵家の楽隊に混じっていても遜色(そんしょく)ない程の腕前でありましてよ! こんな技術をお二方はどちらで?」

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