麻衣ロード、そのイカレた軌跡❷/赤き巣へ
その3
夏美



「紅子さん、ミキさん、そうだとすれば、時間がありません。数日中には出来レースで、新入の本郷が砂垣さんを屈服させ、戦争を回避した殊勲者に祭り上げられます。もう、南玉だけの問題だけではありませんよ。こんなこと、絶対、阻止しないと!」

「…。相川補佐、それさあ…、本郷に南部君との”密会”を、みんなの前で晒された、個人的感情か?それとも、南玉連合や都県境の今後を案じての、公の心からか、どうなんだ?」

「それは…」

私は歯切れよく、即答できなかった

「自分の頭でよく考えて、答えてほしい、相川補佐…」

紅子さんは、この時は胡坐をかいていなかった

「はい。個人的感情はあります。でも、南玉連合を、あんな奴にいいようにさせる訳にはいきません…。だから…」

「よし、仮に、公の気持ちが勝っているってのであれば、紅組は一肌脱ぐ覚悟がある。でだ、相川補佐、どうすべきだ、ここに及んで…」


...



「…。あの…、ミキさんは昨日私ら二人に、幹部会では、絶対その場で辞任するなと言われました。先ほども、今日私らが即時辞任してたら万事休すだったと…。ということは、私らが明後日まで時間を稼いだことで、何か策が残ったと伺えるんですが?」

「はっはっは…。さすが、南玉の名策士だけあるな。なら、相川補佐、どうする?この土壇場で」

「何が何でも、本郷が調停を行ったという既成事実は残せません。その前に、墨東からの謝罪を他の者で…」

「そうだ!ははは…、さすが、たっつぁんが全幅の信頼をおいてる訳だわ。いいわ、あんたは」

「紅子さん…、じゃあ…」

「砂垣は私がねじり伏せる。だがよ、それには前提条件が伴うわな…」


...



「なんですか、それって?」

「まず、あんたら二人は引責辞任する。特に相川補佐、あんたは、南部君との交際を抜きにして、組織に疑念を招いた責任を享受する。例え互いに内通がなくとも、”立場”あるものとしての、軽率な行動を認めるんだ。だがいいか…、それを認めれば、引退の意思を留保されている、南部君もきれいに引退できない可能性もある。それでも、できるのかどうかってことだ」

「…」

正直、躊躇してるし、納得もしていない

私らが、どんなに私心を殺してこの半年、接してきたか…

お互いの組織のことを、心から大事にしてのことだよ!

「いいんだ夏美、無理すんな。あとで後悔するような決断はやめとけ」

達美…、あんたって人は…

私は決心した

「…。わかりました、紅子さん。甘んじてその条件、丸呑みします。達美、私と心中してくれるか?」

「お前がそこまでの気概なら、いいさ、私は…」

「よし!よく言った、二人とも。そこでだ、実際に私が動くには、もう一つ”前提”が必要だ」

紅子さんは、この上、まだ私らに条件を突きつけるというのか…





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