麻衣ロード、そのイカレた軌跡❷/赤き巣へ
その9
夏美



紅子さんは、ケイちゃんの同意を得ることを前提にして動くにしても、まだ”懸念”があるという

「ただ、簡単に私がヤツをねじ伏せると言ってもだな、砂垣の立場で考えりゃ、いろいろあるだろう…。何と言っても相和会との”約束”を破棄することになるんだ、ヤツは。まあ、命を取られるまではないにしても、指の1本くらいはなあ…。それなりの見返りも当て込んでのことだろうし…」

そうか…、今回はその辺まで考えないと、うかつには動けない訳か…

「それじゃあ、砂垣さんの身の保証も確保しないとまずいってことですね…」

私は腕組みをしている紅子さんに聞いた

「まあ、野郎は目先の損得で、いくらでも尻尾を振る風見鶏だ。逆を考えれば、”そこんとこ”クリアなら、どうにでもなるってことだな」

「でも、具体的に何をどうするんです、紅子さん?」

今度は、達美が単刀直入に尋ねた

「うん。ここは頭越しが手っ取り早いだろうってことだ」

「…」

私と達美は、またもや顔を見合わせた

「結論から言うと、相馬会長と話をつけちゃうんだ」

「えー?」

私らは思わずのけぞって、こう叫んじゃったわよ

マジなの…


...



いくら紅子さんが怪物といっても、相手は日本中の広域組織も一目置く、カリスマやくざの親分だよ

ん?待てよ…

以前、ミキさんから、聞いた事あったっけ

紅子さんのお父さんは、相馬会長とは知らない仲ではないと…

ここでポーカーフェースのミキさんが、さらりと言った

「ケイちゃんは部外者として、ケガを負って入院したわ。これ、”今回”の”加害者側”からしたら、傷害罪として訴訟沙汰になると、かなり”面倒”なことなのよ…」

またわからなくって来た

ミキさん達、何が言いたいんだろう…

「私らも、いろいろ情報を精査したんだけど、仮にも、この都県境では有名な走り屋の高原亜咲を、”バイク上”で襲ったのよ。まあ、誰にでも”請負える仕事”じゃないでしょう。もっと言えば、綿密な下準備がなけりゃ、実行できないわ」

それはそうだ…

言われてみれば、あの亜咲がいくらオフの走りとはいえ、人を後ろに乗せ、易々とケガをさせるような事態に陥るとは考えづらいよ

きっと亜咲も、襲撃犯はそれなりの”相手”で、周到な上だったと感づいていただろうに…

亜咲に聞き及ぶとか、そこまでは気が回らなかった




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