麻衣ロード、そのイカレた軌跡❷/赤き巣へ
その10
夏美



「要は、昨日出頭したのは偽物。実行犯は他にいるわ。それと…、うがった見方をすれば、ケイちゃんをケガさせてのも、果たして偶然かどうかもね…」

ケイコが巻き添えを食ったのが、偶然じゃないとしたら、それって…

達美も喰い入るように、ミキさんの話を聞いている

少し間があって、紅子さんが低い声でその後を続けてくれた

「でだ…、今回は警察にもある程度の話が行ってると思うんだ。当然、そうなれば、相馬さん自身の働きかけだろうさ。それが、公に訴訟となれば、証人とかからの証言で、別人物の犯行という事実が浮かび上がる可能性は、極めて現実的だ」

恐れ入ったわ…

この二人、そこまで読み込んでのことなのか!


...



私は、紅子さんとミキさんの考えている”策”の外郭が、おぼろげながら掴めた気がした

「やっと分かりました。あくまで”部外者”である”ケイコの立場”からの刑事訴訟をチラつかせて、警察と下約束の既成事実にくさびを打ち込むぞと牽制する、そういう狙いですね?」

「その通りだ、相川さん。幸い、親父の顧問弁護士は、海外で修羅場をかいくぐってきている国際弁護士でさ。実は、相馬さんの事件にも、携わったことがあるんだ。親父を通じてね」

話がどんどん大きくなってきていくよ…

「だからさ、”その人”が本件を扱えば、どういう展開になるかは、相馬さん自身が十分わかるはずなんだ」

ふうー、鳥肌が立ってきたわ

「でも、これからやろうとしてることは、ある意味、威圧行為だ。女の私みたいなもんが、あの狂人と言われている人に通用するかどうか…」

すさまじい局面になってきたもんだ

本郷麻衣という少女は、紅子さんがこうまで言う”人物”を動かせているのか…


...



「難しいことはわかりませんが、紅子さん、やってみて下さい。ウチらでできることは何でもしますから…」

達美はそう言って、紅子さんに頭を下げてる

「私からもお願いします。どうか、力を貸してください…」

私も二人に頭を下げた

「まあ、頭を上げてちょうだい、二人とも。紅子さんはもう手を打ってるから」

ミキさんが、今日、初めての笑顔を見せて、そう言ってくれた

「ホントですか?」

私と達美はふうっと、深くため息をついていた




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