麻衣ロード、そのイカレた軌跡❷/赤き巣へ
その8
麻衣


「剣崎さん…」

レオに着いて、剣崎さんを見つけると、席の前で立ったまま、私はそう呟いていた

「早かったな、麻衣。まあ、座れよ」

「それより、どうしたんです?なにがあったんです?」

この時の私は、それこそ座ることも忘れていた

たた、早く”コト”の状況を知りたい…

まさにその一心だった

「ああ、今話す。だから座って何か頼め」

肩でゆっくり息を整えてから、私は剣崎さんの正面に座った

「ええ…、じゃあ、梅昆布茶を…」

こいういう時は、思いっきり酸っぱい梅昆布茶に限る…


...


「とりあえず、”これ”に目を通せ」

剣崎さんは一片のコピーした紙を、私の目の前へ、スーッと手で送った

私は即座に両手ですくい上げ、一枚の紙片に目をやった

”紅丸有紀様…、相馬豹一、豹子…”

何なんだよ、この”手紙”のコピーは!


...


「…どうやら、概ねどういう手紙だかは、察しがついたみたいだな」

”その紙”を両手にして食入るように目をやっている私へ、サングラス姿の剣崎さんが、低い声でぼそりと言ってきたよ

「相馬会長の字ですよね、これ。紅子さんへこの内容の書簡を、今日届けたって訳ですね。結婚祝いの”贈り物”と一緒に…」

「ああ、そういうことだ」

「ここには、”あなたのご要請すべて、私共両名、異議なしとご承知おきください…”とあります。これ、”今回の件”なんじゃないんですか?どうなんです!」

「その通りだ、麻衣」

「わあー!」

私は、手にしていたその紙をクシャクシャにして、テーブルに叩きつけた

周りは何事かといった様子で、怪訝な視線を投げかけてくる

クソッ!

「何故なんです?どうして、こんな手紙を紅丸さんへ…」

「麻衣、紅丸有紀の父親は、実は会長とは知らない仲じゃない。ある”厄介”な事件の際、紅丸氏に相談して、顧問弁護士を紹介されたこともあった。今日、その手紙を内包した”贈り物”を届けた先が、その弁護士だ」

「…」

私は言葉が出なかった


...


その事件とは、関東の広域組織が、”海の向こう”を巻き込んだ、策謀がらみの一件だったらしく、相馬さんは紅丸氏お抱えの国際弁護士z氏を擁立したらしい

複数の国の法律をマジックのように駆使する辣腕のz弁護士によって、難なく当該事件は勝訴、その時も広域組織を撥ね退けたらしい

そのz氏が、今度は私らガキの”諸々”に、しゃしゃり出てきたってことだ

「麻衣、そこにある”要請”とは、早い話が”無条件承諾”だ」

「何なんですか‼それは…!?」

私はここ近年ないくらい、アタマが熱くなっていた

「紅丸有紀は、すべて読み切ってる。会ったこともない、お前のこともな。その上で、”要請”に”承諾”なき場合は、今回の”偽物”を仕立てた件を、被害者側から告発すると迫ってきてるんだ」

何だってー??

被害者側って、ひょっとして…、あのカモシカ女ってことなのか…!!




< 38 / 44 >

この作品をシェア

pagetop