麻衣ロード、そのイカレた軌跡❷/赤き巣へ
その12
真樹子



あれ?

雨が降ってきた…

麻衣さんのバイク、濡れちゃうなあ

ええと…

ああ、隣のビデオ屋に移動しとこう…

ちょうど屋根の下に停めるスペースがあるから

キーも預かってることだしね…


...



バイクを移動してレオの前に戻ると、剣崎さんが立っていた

「よう、待たせたな」

「お疲れ様です。終わったんですか、話は」

「ああ。だが、麻衣は頭を抱えて、しょげてるよ。中へ入って、話を聞いてやってくれないか」

「あ、わかりました。じゃあ…、失礼します…」

「ちょっと待て」

急ぎ足で店内に入ろうとする私を、剣崎さんが呼び止めた

「これで、なんか腹にたまるもんでも食え」

剣崎さんは財布から紙幣を数枚取り出し、私に差し出した

「ありがとうございます」

私は遠慮なく受け取って、お礼を言った

「ここはパエリアがお勧めだ。うまいぞ、ハハ…、じゃあ麻衣を頼む」

剣崎さん、麻衣さんを相当、気遣ってるなぁ…

一体、どんな事態が起こったんだろうか

私は、車に向かう剣崎さんにお辞儀してから、店に入った


...



麻衣さんは一番奥の席に座っていた

こっちからは背中しか見えないが、落ち込んでる様子は一見して覗えた

「麻衣さん…!」

「ああ、真樹子さん…」

私が席に腰を下ろすと、麻衣さんはぽつりと言った

「負けましたよ、やられました…」

私は言葉が出なかった…


...


この人が落ち込んでる姿を、私は初めて見た

麻衣さんは、ひと通りの話をしてくれたわ

「あのさ、私、頭悪いからトンチンカンなこと言ってたら、勘弁してほしいんだけど…。どうなのかな、砂垣からの謝罪はあくまで横田個人に対してでしょ?であれば、南玉に対してはこっちが別にとれる方策って、あるんじゃないかしら?」

「それ、私も剣崎さんに詰問したんだ。でも、ダメ。横田側は”南玉幹部”亜咲さんへの謝罪もひっくるめていて、その亜咲さんは南玉を脱退してるから、それは南玉連合に宛てる謝罪となるって」

「…」

「しかも、今回の件での対立を終局させる合意条項も入ってるらしい。それを書面にしたものを、横田の代理人として弁護士から、南玉に届けられるそうよ。ふふ…、所詮は、トリックにすぎないけど、私を封じ込めたってことにはなる訳。見事よ、さすがだわ、紅丸さんは…」

そうか…、ここまで綿密に手を打っていたのか、あの怪物は…

どうやらお惚気は、紅組内の目をくらますジェスチャーだったようだわ、クソ!


...


「でも、どうなんだろう。負けたと言っても、要は砂垣からの謝罪を取り付けられなかっただけでしょ。向こうからすれば、それだけを絶たせた以外、全部譲歩じゃない。高原襲撃の真相を暴くことも放棄して、麻衣さんを糾弾する気もなさそうだし…」

私は麻衣さんを前に、熱弁をふるった

「対して、こっちは執行部二人を引責させたし、相川には南玉メンバーの前で大恥をかかせた。木戸との連携も大きいわ。南玉内部で今後暗躍できる足がかりを、麻衣さんは築けたし。私は得るもの、大きかったと確信してる。むしろトータルでは、勝ちだと思ってる」

「今回の計画の目的はあくまで、こっちのシナリオ通りに
自作自演の幕を引くことだった。それに尽きたのよ。それ、阻止された。この計画は失敗よ、真樹子さん…」

「麻衣さん!」

「でもさ…、真樹子さんの言ってる意味はよく分かってる。私も収穫は大きかったと思ってるしね。ありがとう、真樹子さん…」

この人は、どうしてこんなに自分に厳しいんだろう

確かに私らがやってることは、はっきり言って犯罪の範疇だ

世間から見れば、何の価値もない、悪ガキの馬鹿げた所業だよ

だけど、そんなことでも、自分を追い込んでる…、私らは

命を賭して…

私と麻衣さんは無言で、”次の段階”への決意を誓い合ったよ





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