隣のあいつに溺愛されて

1話

〇引っ越しのトラックの中

はぁーとため息をつく結菜。
ぼーっと外を見ていて、ふと母親と女の子の親子を見つける。

(回想)
母親「結菜。こっちよ。」
結菜「ママ、待って。」
笑顔の時。
結菜の胸が何となく、温かくなる。

運転手「お客さん、着きましたよ。」
ハッとする結菜。
結菜「ありがとうございます。」

トラックを降りると、叔父の太治が玄関の前で待っていた。
結菜「叔父さん。」
太治「おお、来たか。結菜。」
笑顔で迎える太治。
その後ろで、従兄弟の順が、両手をポケットに入れて、待っている。

太治「順、荷物を入れるの手伝え。」
順「はいはい。部屋は奥の部屋でいいんだろ。」
太治「ああ、そうだ。」

順は引っ越し業者の人を一緒に、荷物を家の中に入れる。
太治「結菜、部屋はこっちだよ。」
太治は、結菜を家の中に入れて、廊下の一番奥の部屋に、案内した。

畳の部屋で、6畳程の大きさ。
今まで結菜が使っていた部屋よりも、一回り小さい。
太治「すまんな。こんな部屋しか空いていなくて。」
結菜「ううん。十分だよ。」

すると結菜は、こっちを覗く従姉妹の真美に気づく。
真美は、結菜と同じ歳だ。
太治「真美、お前も引っ越しの手伝いをしろ。」
真美「私、勉強があるから。」
そう言って真美は、行ってしまった。

太治「すまんな。真美は、少し人見知りで。」
結菜「分かってます。何度か会ってますから。」
結菜は、笑顔を作って太治に見せた。

今から高校卒業まで、お世話になるのだ。
たった数カ月だが、余計な心配はかけたくない。

太治「結菜。進路はどうする?」
太治は、荷物の片づけを手伝いながら、結菜に話しかけた。
結菜「高校卒業したら、働こうと思っています。」
太治は手を止めた。
結菜「いつまでもお世話になる事はできないので。」
太治「おいおい、大学は行かなきゃだめだぞ。」

太治はポケットから、通帳を取り出した。
太治「兄貴の通帳だ。結菜のお母さんから預かった。これだけ遺産があれば、大学だって行ける。」
結菜は父親の通帳を、じーっと見つめた。
自分の父親のお金なのに、今は叔父の手の中にある。

結菜「ありがとうございます。考えてみます。」
太治「ああ。」
結菜は、目の前の荷物整理に集中し、余計な事を考えないようにした。

夕食が終わり、お風呂の時間になった。
真美「結菜、シャワー浴びたら?」
結菜「うん。ありがとう。」
結菜は、パジャマやバスタオルを持って、脱衣所に向かった。

〇脱衣所
脱衣所には、電気が点いていた。
前にシャワーを浴びた人が、消し忘れたのだろう。
結菜は、勢いよく脱衣所の戸を開けた。
順「えっ……」
目の前には、裸の順がシャンプーの袋を手に取っていた。

慌てて脱衣所の戸を閉めた。
順「結菜、早めに出るから待ってて。」
結菜「いいよ。ゆっくりで。」

しまった。男の裸を見るなんて。
しかも、従兄弟の順だなんて。
質が悪い。

真美「あれ?誰か入ってた?」
真美が、ひょうひょうと現れた。
結菜「順君が入ってた。」
真美「へえ。もしかして、裸とか見ちゃった?」
ニヤニヤする真美に、結菜はわざと自分を脱衣所に呼んだのだと思った。

結菜「一瞬だけね。」
真美「本当?」
真美は、結菜の顔を覗き込んでくる。
真美「顔、赤くなってるよ。さては、男の裸見るのは、初めて?」
少し熱くなっている顔を押さえ、結菜は目を反らした。

真美「まあ、いいけどね。兄さんは、結菜の事好きだし。」
結菜「はあ?」
真美「知らなかったの?」
そこでも、真美はニヤニヤしている。

そこへ脱衣所の戸が開いた。
順「ごめん、結菜。待たせた。」
振り向いた瞬間、順と目が合う結菜。
いつの間にか、男の子から男の人に変わっていた順。

順「ん?」
結菜は頭を横に振った。
結菜「お風呂入るね。」
順「ああ。ごゆっくり。」
そんな二人を、真美は半分冷やかしながら笑っている。

真美「よ!ご両人さん。」
すると順は、真美に”あっちに行け”と、手を振り払った。
真美「はいはい。」
真美が向こうに行ってしまうと、順は小さなため息をついて、結菜を見た。
順「気にするな。結菜。」
結菜はうんと頷くと、脱衣所の中に入って行った。

〇リビングの前の廊下
シャワーを浴びた結菜は、脱衣所から出て、リビングに戻ろうとした。
ふと廊下からリビングを見ると、太治と叔母さん、二人しかいない。
叔母「ねえ、結菜ちゃん。いつまで家にいるの?」
太治「少なくても、大学卒業までは面倒見なきゃダメだろ。」
叔母「そんなに?」

叔母は、顔をしかめた。
叔母「真美は、家族以外の人が家にいると、勉強に集中できないのよ。」
太治「それがどうした?」
叔母「真美は、行きたい大学があるのよ。ずっと夢だった保育士になりたいの。」
太治「受ければいいだろ。」

叔母はうーんと唸った。
叔母「ちょっとね。結菜ちゃんがいると……」
太治「何がいいたい。」
あんなに仲が良かった叔父さん夫婦が、自分のせいで喧嘩になりかけている。

結菜は心が痛かった。
しかも叔父さんは、私の味方をしようとしてくれている。
優しい叔父さんにも、申し訳ない気がした。
結菜「叔父さん。」
結菜は思い切って、リビングに入った。

〇リビング
太治「結菜、どうした?」
あえて、話を聞いていたのか、尋ねてこない叔父の優しさに、心がジーンときた。
結菜「相談があるの。」
太治「何だ?」
結菜「私、一人暮らししたい。」

太治は唖然としていた。
結菜「お母さんが入院している間、私一人で暮らしていたし。その方が気が楽で。」
太治「しかし。」
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