再会した敏腕救命医に娘ごと愛し守られています
私の精一杯の強がりだ。
彼に撫でられた頭の感触は切ないほどに胸が苦しくなった。
でもこんなことしていてはいけない。
斗真には斗真の人生がある。
私や紗良が彼の足枷にはなりたくない。今ならまだ進まずにいられる。ぎゅっと握りしめた私の手を斗真は優しく包み込んだ。

「優里」

優しい声に俯いたままの顔を少しだけあげた。

「優里にはもう終わっていると言われたけど、俺は終わってない。あれから誰とも付き合わずにいた。何故優里がいなくなったのかとどれだけ考えたか分からない」

「斗真?」

「俺の力の源は優里だよ。今でもそれは変わらない。いつか優里に会えたら胸を張っていられる医者でありたいと努力して来たんだ。だから俺の中では終わってない」

力強い彼の言葉に心が揺さぶられる。

「優里には苦労させてしまった。紗良ちゃんは俺たちの子だろう? あの時俺がすぐに連絡しなかったら消えてしまったんだろう? ごめんな。あの頃は自分のことだけで精一杯だった」

「そんなのわかってた。斗真が医者としての人生を歩き始めたばかりで大変なのは分かってた」

「いつもなら連絡をしてこない優里が電話もメッセージもくれるなんて相当なことだよな。それに気が付かなかった俺はバカだ。ごめん」

私の手を握る彼の手に力が入る。

「何度も何度も思い返して、やっと気がついた。優里が連絡を取りたがっていたのは子供ができた話をしたかったんだよな。あの時のあの時間を巻き戻したいよ」

斗真は項垂れていた。自信に満ち溢れている彼の姿しか私は見たことがなかった。学生の頃から斗真はいつも輝いていて、私には手の届かない存在だった。そんな彼から付き合おうと言われてどれだけ嬉しかったかを思い出した。気さくな彼はいつでも周りに人がいて、魅力に溢れる存在だった。そんな彼が私と付き合ってくれるなんていつも信じられなかった。
やっと現実なんだと信じられるようになり、彼から結婚の話が出て私の自信になった。それなのに私からの連絡に返信もしてくれず、電話もかけてくれない彼に失望したのだ。

「斗真にとって私はなんだった?」

不意に言葉が出てしまった。

「ごめん。なんでもない」

私はさっと彼の手の中から引き抜こうとしたが彼にギュッと握りしめられた。
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