再会した敏腕救命医に娘ごと愛し守られています
私は頷くとキッチンで食事の支度を始めた。
たまご丼と筑前煮、作り置きしていたレンコンのきんぴらを出すと斗真は驚いていた。

「随分手際がいいんだな」

確かにあの頃に比べて早くなったと思う。
マンションにいた頃は簡単な料理が多く、今のように時間に追われてもいなかった。だからのんびり作っていたが、今は紗良の時間に合わせなければならない。

「ママ、いただきます」

紗良はそう言うと子供椅子に座らせるよう斗真の手を引いていた。
斗真は理解したのか紗良をひょいっと抱き上げると椅子に座らせてあげていた。

「斗真もどうぞ座って」

「とーま、どーぞ」

紗良が私の真似をして斗真を名前で呼んだ。
ふたりで驚いて思わず顔を見合わせてしまった。

「紗良ちゃん、ご馳走になります」

「いただきますだよ」

そう来たか。
思わず笑ってしまった。
斗真も笑っていて、改めて「いただきます」と紗良に向かって手を合わせていた。
紗良を挟んで笑いの絶えない楽しい時間になった。
20時も近くなり、さすがに紗良をお風呂にいれて寝かしつける準備の時間だ。
斗真も明日は仕事だと言っていたので帰らないとダメだろう。

「紗良ちゃん、また遊ぼうな」

斗真が紗良の頭を撫で、玄関に向かうと後追いして来た。

「とーまー。かえっちゃだめ」

「え?」

彼の服を掴み、帰ったら嫌だと駄々をこね始めた。

「紗良。斗真は忙しいんだからね。そろそろママとお風呂に入ろうか」

私が抱き上げようとするが、斗真の服を離さない。
最近は私のことも後追いせず、バイバイというのになぜ?
泣き始めた紗良をなだめるが泣き止まない。
すると斗真が抱き上げてくれた。

「紗良ちゃん、またお休みの日に遊びに来てもいい?」

「うん」

「今度また公園に行こう」

「うん」

「いい子だな」

斗真がギュッとハグすると紗良も斗真の首にしがみついていた。こんな短時間の間に懐いたのだろうか。それともやはり何か感じるものがあるのだろうか。
ふたりの姿を見ていると少し切なくなった。
そして、ふたりを引き離してしまったのは私なのだと改めて感じた。
斗真から紗良を受け取ると頭を撫で、「またな」と言うと紗良も頷いていた。
そして私の頭も撫でてきた。

「優里。またな」

こくっと頷くと斗真の手は私の頬へと下りてきた。頬を撫でられる感覚に胸の鼓動が高まる。
一瞬の出来事だったが、彼の気持ちが流れ込んできたような気がした。
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