夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 ランスロットの執務席からソファ席までは六歩以上離れているうえに、シャーリーはその執務席から最も遠い場所のソファに座った。それから、書類を納期別に振り分けていく。その中で、ランスロットの確認が急ぎで必要なものは、さらに別に振り分ける。
 夢中になっているからだろう。ランスロットとの距離がさほど気にならなかった。いや、六歩以上離れているからかもしれない。
 久しぶりに仕事をしたからか、シャーリーは高揚感に溢れていた。
「団長。急ぎの案件だけ振り分けましたので。こちらを先に確認していただけますか?」
 シャーリーがそう口にしたのは、書類の確認を始めてから一時間後のことだった。だが、どうやってランスロットに書類を手渡したらいいかがわからない。彼に近づくことができないのだ。
「わかった。そのテーブルの上の隅に置いてある分だな」
「はい、そうです。それ以外は、上から納期順に並べました」
「だったら、君は自分の席で少し休憩していなさい。その間に俺がその書類をこちらまで盛ってくる」
「わかりました」
 シャーリーは立ち上がると、資料室にある自席へと戻る。
 そしてこの席に座ってから知った。扉が開いていれば、この席からランスロットの姿が見えるのだ。
 彼はどのような気持ちで、ここにシャーリーの机を準備したのだろう。
 胸がチクンと痛んだ。
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