夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 うぐっとランスロットは言葉を詰まらせた。聞かれても、特に答えられるような内容は何もない。
「その様子じゃ、特に進展もないのか。まだ五歩圏内に入れないのか?」
「うっ……」
「夜も寂しく一人寝か。新婚のくせに」
 ずずっとジョシュアが茶をすすった。
 新婚であるが新婚ではない。それがランスロットも辛いところである。わかっていながら、目の前の男は口にするのだ。その言葉にどのような意図があるのかはわからない。
 ランスロットは目の前のカップに手を伸ばし、乱暴につかみ取った。
 喉元を通り過ぎていく温かなものが、ランスロットの苛立つ気持ちを、落ち着けてくれるような感じがした。だが、同時に虚しさが込み上げてくる。
「どうしたらいい?」
 思わずジョシュアにそう尋ねていた。
 尋ねられたジョシュアも困っているのか、眉根を寄せる。
「どうしたらいいって。お前、どうやってシャーリーと付き合うようになったんだ? そのときのことを思い出せよ」
「思い出すと言われてもだな。シャーリーが事務官として働き始めてから一年後に専属事務官になってもらい、その半年後に俺から告白した。結婚を前提にってな」
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