夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 魔道具で湯を沸かし、ティーポットに茶葉を入れようとして手を止める。
 いつもはシャーリーがランスロットの隣で行っていたこと。
『今日は、どのようなお茶がいいですか?』
 恥ずかしそうに微笑みながら、彼女はいつもそう聞いてきた。
 だが、ランスロットには茶葉の種類がよくわからない。ワゴンの下の段には、茶葉が入った缶がいくつか並べられている。
『そうだな。少し、後味がすっきりとしたものが飲みたいな』
 そう答えた時に、彼女が手にした缶は何色だったろう。
 ランスロットは青色の缶を手にすると、ティーポットに茶葉を入れ、湯を注いだ。
 お茶の香りが、ほんのりと漂ってくる。
『お茶菓子もありますよ』
 お茶を蒸している間、シャーリーは手際よくテーブルの上を拭いて、お菓子を並べていた。今日は、彼女がいないからお菓子はない。このお茶だけだ。
 だったら、この場で飲んでも問題はないだろう。
 立ったまま、手にしたカップに勢いよくお茶を注ぎ入れる。
 お茶は跳ね、カップの中でぐるぐると渦を巻いていた。
 乱暴に口元へと運んだが、まだ熱くて飲めない。
「くそっ」
 見るからに色の濃いお茶を、ワゴンの上に置きなおした。
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