夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 ランスロットは今朝だって、菓子を買ってきてくれたシャーリーに礼を口にしていた。それに、シャーリーが何かするたびに「ありがとう」と声に出してくれるのだ。
「うん、頑張って団長と話しをしてみる。ありがとう」
「そうやって素直に団長の前でも『ありがとう』を言えばいいのよ」
 アンナには言えるその言葉が、ランスロットの前で口にするのは恥ずかしいと思えてしまった。
 食事を終えた二人は、食器を片付けるために席を立つ。
「あ、ごめんなさい」
 席を立った瞬間、近くにいた男性とシャーリーはぶつかってしまった。
「いや、こちらこそ」
 相手もペコリと頭を下げて、食事を手にしたまますぐさま去っていく。
 不可抗力な接触に嫌悪感はない。だけど、意図的な接触は苦手なのだ。だから男性との会話をするには距離が必要となるし、悪意を持った接触があれば叫びたくなる。
「今の人、甘いものが好きなのかな。デザート、三つもあった。珍しいよね、男の人であれだけデザートを食べるのも」
 アンナがくすりと笑う。
「団長も、甘いものが好きなのかな」
「え、団長?」
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