夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
「おはよう、シャーリー。君の席はそこに移動した。不便なら言ってくれ。すぐに他の場所に移動させるから」
「いえ。こちらで充分です。ここからでしたら、団長の姿も見えますし、執務室に入って来た人の確認もすぐにできますから」
「机の上に置いてあるベルは、何かあったときに事務室と騎士団の待機室へと連絡がいくようになっている。もし、俺がいないときに変な奴が事務室に入ってきた場合は、そのベルをすぐに押してくれ」
「例えば、王太子殿下の場合はどうしたらよろしいでしょうか?」
「迷うことなくベルを押せ」
 お茶を飲んでいたジョシュアはぶほっと噴き出した。
「ひっど。私はお前にとってはそんな扱いなのか?」
「俺にとってではない。シャーリーから見たらだ。彼女から見たら、俺以外の男は皆、変な奴だ」
 くすくすと、笑い声が聞こえてきた。シャーリーである。
「団長と殿下は、本当に仲がよろしいのですね。では、殿下の場合にはベルを押しません。そちらの席でおもてなしをいたします。ですが、私にできることはお茶とお菓子をお出しする事だけですが」
「そうだ、私とランスは仲良しだよ。何しろランスの母親が私の乳母だったのだから」
 そこでジョシュアはシャーリーに向かって片目を瞑った。
 ランスロットの母親は、ジョシュアの乳母であり、父親は騎士であり、団長であった。だから、ランスロットはジョシュアの乳兄弟であり、父親と同じように騎士となったのだ。だが、そんな両親も数年前の流行り病により、夫婦仲良く逝ってしまった。まだ二十代であったランスロットは、ハーデン家の当主となり、騎士団長の地位に就いた。
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