夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
「シャーリー公認ということは、これで私もここで堂々とさぼりができるようになったということだな」
 勢いよくジョシュアは席を立つ。
「じゃ、そういうことで。また遊びに来る」
 ひらひらと手を振って、ジョシュアは部屋を出て行った。
「すぐに片づけますね」
 そう言ったシャーリーはテーブルの上に残されたカップをトレイの上にのせて、ランスロットの執務席の後ろの扉へと向かった。
 そういえば、彼女が復帰してから、そこに何があるのかをランスロットは教えていない。
 微かな期待を寄せながら、彼女の背中を見つめる。
 入口から彼女の席までは三歩ほどしか離れていないが、机という遮蔽物があればそのくらいの距離でも大丈夫なようであった。
 それはランスロットが以前、シャーリーから聞いた情報によるものだ。
 とにかく、他人からの悪意を込められた接触を嫌っている。そのような接触を好きな者はいないと思うが、それを人一倍敏感に感じ取るのがシャーリーなのだ。

 シャーリーの机が移動になってから、十日が経った。
 ランスロットからみて、二人の関係に進展はあまりない。一か月前よりは進展しているが、十日前からは変わりがない。そんな状況である。
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