夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 だが、そんなシャーリーは先ほどからそわそわとしているようだった。
 何か予定があるのかと深読みしてしまうくらいに、落ち着きがない。
「シャーリー、どうかしたのか?」
 その様子を見かねたランスロットが声をかけた。
「あの。少し手間のかかる書類がありまして。うまくメモにまとめることができないので、説明した方が早いと思ったのですが」
「だったらそこのソファで聞こう。俺は君から離れた場所に座るし、できるだけ君に近づかないようにするから」
 シャーリーは驚いたように目をパチパチと瞬いた。
「お気遣いありがとうございます。では、そちらで説明いたします」
 彼女と同じテーブルについて、同じ書類を確認するのも、彼女が復帰してからは初めてのことだ。
 シャーリーが書類を手にしながらソファ席につくと、ランスロットも彼女の対角線の延長上に座った。
「団長、こちらの資料ですが」
 シャーリーはランスロットに良く見えるように書類を広げた。彼女がこのように熱っぽく語るのも、ランスロットは久しぶりに感じた。
「すまない。今のところをもう一度……」
 ぼんやりと彼女のことを考えていたから、大事な部分を聞き漏らしてしまった。
「はい、ではここからもう一度説明します」
「ああ、すまない」
 シャーリーは嫌な顔一つせずにランスロットが理解するまで付き合ってくれる。それは一年前から、ずっとだ。
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