夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
「あ、待ってくれ。今のこの場所だが」
 ランスロットが一つの数値を指で示した時、シャーリーの指と触れてしまう。
「すまない。わざとではない」
 驚いて顔を上げると、シャーリーの顔も近くにあった。あきらかに五歩圏内に入っている。
「ご、ごめんなさい……」
 そう言って、少し顔を引いたのはシャーリーだった。
「いや。俺は別に。それよりも、俺に触れられて不快だったろう」
 何しろ今のシャーリーは妻となったシャーリーではなく、二年前のシャーリーなのだ。
 二年前の彼女は異性に触れることができない。特に、手が触れるのを極端に嫌がっていた。
 だが、今の彼女は赤くなった顔を隠すかのように、両手で頬を包んでいる。
「いえ、不快なんてことはありません。ただ、驚いてしまっただけです」
「だが君は。異性の手が苦手だろう?」
 ランスロットの言葉に、シャーリーは目を大きく見開いた。
「団長は。私がどうしてそうなったかをご存知なのですね」
「ああ。シャーリーから聞いたからな」
「そうですか」
 そこでシャーリーは何かを考えるように目を伏せる。
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