夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
「ですが。団長の手は不快ではありませんでした」
 シャーリーの言葉に、ランスロットはドキリとする。
 一年前にも、同じようなやり取りをしたのだ。
「俺の手は、君を傷つけるためにあるわけじゃないからな」
 その言葉に、シャーリーは顔をあげる。
「団長……」
「俺は、絶対にこの手で君を傷つけるようなことはしない。それだけは約束する」
 ランスロットは両方の手のひらをまじまじと見つめた。
(そうだ……。あのときは、この手でシャーリーを守れなかった)
「団長……」
 シャーリーがすっと手を伸ばしてきた。そして、ランスロットの右手の人差し指を握る。
「私、団長の手は怖くありません」
「シャーリー……」
「私、団長の手を知っています」
 それは、仮にも夫婦だからだ。半年間、清いお付き合いをしてきたから、もちろん手を繋いだことくらいはある。
「団長の手は、私を守ってくれる手に似ています」
 それは、一年前にランスロットが彼女に告げた言葉だ。
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