夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 そろそろシャーリーも素直になるときなのかもしれない。いや、考えていたことを正直に口にするべきなのかもしれない。
「あの。ランスロット様……」
 シャーリーが彼の名を呼ぶだけで、ランスロットの顔は盛大に綻ぶ。
「なんだ?」
「ご迷惑でなければ、一緒の部屋で休みませんか?」
 それはシャーリーが、彼に触れてから考えていたことだった。
「いつも、こちらで休まれていると、イルメラさんから聞きました。この狭いソファでは疲れもとれないですよね。寝台は広いですから」
「しゃ、しゃ、しゃ、シャーリー。君は、記憶が戻ったのか? 俺のことを思い出したのか? 思い出したのなら、愛していると言ってくれないか?」
「あ、あの……。残念ながら、記憶は戻っていないのですが……」
 ランスロットは目尻を下げた。明らかにがっかりしている。
「ただ、ランスロット様がこちらでお休みになるには、狭いと思ったので。それで、もしよろしければ、と思っただけです」
「だが、記憶が戻っていないのなら、俺が側にいては怖いだろう?」
 シャーリーはふるふると首を横に振った。
「不思議なことに、ランスロット様は怖くありません。先ほども、触れることができました。だから、その……。ご迷惑でなければ、もう一度触れてもよろしいですか?」
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