夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
「んっ……」
 ごそごそと寝台の上で彼女が動く音がする。
「あ。おはようございます……、ランスロット様……」
 寝台の上で身体を起こし、先に起きていたランスロットに気づいた彼女は、はにかみながら声をかけてきた。
「ああ。おはよう。昨日はよく眠れたか?」
 ランスロットは穏やかな声で、そう言葉をかけた。だが、彼の心の中は歓喜で溢れている。
 まずはシャーリーが同じ寝台で眠ってくれたこと。そして朝の挨拶をしてくれたこと。さらに名前を呼んでくれたこと。
(駄目だ……。今すぐシャーリーを抱きしめたい)
 だが、それは昨日、彼女に拒まれたのだ。だから、我慢をするしかない。
「あ、はい……」
 寝台の上でもぞもぞとシャーリーは動いている。
「どうかしたのか?」
「あ、いえ……。その、まだ着替えておりませんので」
「ああ、すまない」
 扉続きで衣装部屋がある。恐らくそちらで着替えるのだろう。だが、彼女は寝起きの姿をランスロットには見せたくないようだ。その辺の彼女の気持ちが、ランスロットにはよくわからない。
「俺は執務室に寄ってから食堂に行く」
「はい」
 うつむいた彼女は、どこか恥ずかしそうだった。
< 148 / 216 >

この作品をシェア

pagetop