夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 事務室に書類へ持っていくときもそうだ。この場所から事務室までは近いが、たったそれだけの距離であるにもかかわらず、誰かに見張られているような気がする。
 それを感じるようになった時期と、ランスロットが送迎する時期が、不思議なくらいに重なれば、いくらシャーリーであっても何かに勘づくというものだ。
 カタっと扉の外から音がした。思わずシャーリーは身を強張らせる。ランスロットの会議は一時間ほどで終わる。だが、まだ彼が執務室を出て行ってから三十分しか経っていない。
 ガチャガチャと扉の取っ手を回す音がした。そして、シャーリーの席からもその取っ手が微妙に動いているのが目に見てわかる。
(え? 何?)
 シャーリーは音を立てないように、机の上にあった帳面をそっと引き出しの中に仕舞う。
 それから、そろそろと歩いて、ランスロットの執務席の後ろにある部屋へと移動する。
 こちらにも鍵をかける。
 なぜかこの部屋であれば、安全なような気がしたのだ。
 シャーリーは扉の前に座り込み、ただひたすらランスロットが帰ってくるのを待った。

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