夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 いつまでそこに座り込んでいたのかわからない。
 執務室の扉が開けられたのか、誰かが侵入してきたのか。それすらわからなかった。
「シャーリー、シャーリー」
 隣の部屋からランスロットの声が聞こえてきた。その声は間違いなくシャーリーを探している。
 この部屋にある時計を見ると、ランスロットの会議はとっくに終わっている時間だ。
 シャーリーは恐る恐る扉を開けた。
「ランスロット、様……」
 消え入るような声で彼の名を口にしたのに、すぐさまランスロットはシャーリーに気がついた。
「シャーリー。そこにいたのか。戻ってきたら、部屋の鍵が開いていて。何か、あったのか?」
 シャーリーはランスロットの姿を目にした途端、脱力してしまい、ペタンとしゃがみ込んでしまった。
「ランスロット様……。私、怖かった……」
「あ、ああ。何が、あったんだ?」
 ランスロットからも戸惑いの表情が見え隠れする。
「あ、はい……」
 シャーリーは立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。
「あれ?」
 彼女の様子を、ランスロットはしかめっ面で見つめている。
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