夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
「もしかして、立てないのか?」
「そう、みたいです」
 ランスロットは腕を組み、小さく息を吐いた。
「君が嫌でなければ、抱きかかえてもいいか?」
 言葉の端が震えているようにも聞こえた。
 シャーリーは、頬に熱をためながら「お願いします」と答えた。
 寝台を共にしているのに、彼と触れ合うのは手を握り合うことくらいだ。
「不快だと思ったら、すぐに言ってくれ。暴れられると、落としてしまうかもしれないから」
 ランスロットはいつもそう口にする。
「大丈夫です。ランスロット様を、不快に思うことはありません」
「くっ」
 彼は何かに耐えるかのように唇を噛みしめてから、シャーリーを横抱きに抱き上げた。
 そして、執務室のソファにおろされる。
「お茶でも飲むか?」
「いえ……。それよりも、側にいてくれませんか?」
 シャーリーは、彼の上着の裾を握りしめていた。
「わ、わかった」
 ランスロットは戸惑いながらも、シャーリーの隣に腰をおろす。
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