夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
「お呼びですか? ハーデン団長。ところで、シャーリーは?」
「体調を崩したようで、今、休ませている。だから、悪いがウェスト事務官。頼まれてくれないだろうか」
「私で良ければ」
「ジョシュア王太子殿下、レイモン魔導士団長、ブラム諜報隊長を呼んできてほしい。俺の執務室に来るようにと」
「承知しました」
 アンナの礼はいつ見ても美しい。事務官の責任者として相応しい所作だ。それに、余計な詮索をしないところも、ランスロットは高く評価していた。
 アンナに必要なことを頼んだ彼は、眠っているシャーリーを抱き上げ、隣室の寝台へと連れていく。
 これからの話の場に、彼女はいない方がいいだろう。それに、この部屋なら安全だ。
 小さく寝息を立てている彼女に、ランスロットは優しく毛布をかけた。
 ランスロットが執務室でシャーリーの帳面の内容を確認していると、ブラムがやって来た。
「団長、お呼びでしょうか?」
「ああ。そこに座れ。これから、ジョシュア殿下とレイモンも来る」
 二人の名を耳にしたブラムは、ふるっと身震いをする。
「オレだけ場違いじゃん」
「諜報の隊長が何を言ってる」
 ブラムはきょろきょろと周囲を見回してから、ランスロットの斜め向かい側に座る。
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