夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 シャーリーは迷うことなくランスロットの側に寄るが、彼の腕をすり抜けて隣にすとんと座った。
「あなた、怪我をしているの。少し、おとなしくしていなさい」
「こんなの、かすり傷だ。それよりも今は、君を……」
 そうやって腕を広げてシャーリーを求めるランスロットの額を、彼女はぴしゃりとはたいた。
「それよりも、説明をしてもらえませんか? なぜ、ブラムさんがすぐに駆けつけることができたのか」
 シャーリーが気になっていたのは、彼がタイミングよく現われたことだった。
 むむっとランスロットは、眉間に深く皺を刻んでいる。彼がこのような表情をするのは、いろいろと考えているときだ。言いたいことが言いにくいとき。もしくは、適当な言葉を並べて誤魔化そうとするときでもある。
「ランス。誤魔化そうだなんて考えても無駄よ。あなたがそんな顔をするときは、適当なことを言おうとしているときだって、わかるんだから」
「くっ」
 観念したかのように項垂れたランスロットは、仕方なく事の流れをシャーリーに説明し始めた。
 婚礼の儀のあのとき、暴漢が狙っていたのはランスロットではなくシャーリーであったこと。そのとき頭を強く打って、記憶を失ったと思われていたが、それは『忘却の魔法』によるものだったこと。ここ数日、シャーリーが誰かに狙われていたのは、彼女が『魔導士団の不正』に気がついてしまったこと。そして、ランスロットの執務室に盗聴魔道具が仕掛けられていたこと。
「だから、俺たちはそれを逆に利用した。シャーリーが記憶を取り戻し、魔導士団の不正について、つまり薬品庫から薬草などの材料を不正に持ち出していることに気づかれたら、困るヤツを罠にしかけることにしたんだ」
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