夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
「シャーリー殿。こちらの調査が遅くなって申し訳なかった」
 そう言って、頭を下げたのはレイモンだ。
「あの短刀。毒薬が仕込んであった」
「毒薬? もしかして、例の惚れ薬……」
「そこまで話を知っているのか」
 レイモンの言葉にシャーリーは小さく頷いた。
「団長のことだから、シャーリーの記憶が戻って浮かれぽんちで話しちゃったんじゃないですかね」
 キリッとブラムを睨みつけたレイモンであるが、すぐさま穏やかな視線をシャーリーに向ける。
「短刀に仕込まれていた毒薬は、惚れ薬ではありません。ただの、一般的な毒薬です。まあ、一般的と言いましても、毒薬ですからね。このように、身体を蝕み、最悪、死に至らしめる」
「てことは、ランスも?」
「いえ。すぐに解毒薬を傷口に塗りましたので。しばらくは苦しむとは思いますが、そこまでではありません」
 そこまでではない、すなわち死なない。その言葉に安堵する。
「シャーリー殿。この薬を定期的に傷口に塗ってください」
 レイモンがシャーリーに近寄ってきたため、イルメラが三歩前に出て、彼から塗り薬を受け取った。その後、彼女からシャーリーが受け取る。
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