夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
「Bはなぜそのようなことを?」
 腕を組んで話を聞いていたジョシュアは問いかける。その問いに男たちは唸る。
「そんなこと。簡単な答えですよ」
 沈んでいる空気にアンナの高い声が響く。
「Bはシャーリーに好意を寄せている。それ以外は考えられません。だからハーデン団長を襲おうとしたし、シャーリーを攫った」
「だが、シャーリーの交友関係は狭い」
 ランスロットは声を荒げた。
「狭いですが、事務官としての最小限の付き合いはしています。書類は丁寧だし、相手を思いやることもできる。ハーデン団長だって、シャーリーとの出会いは書類のやり取りから始まりましたよね」
 アンナの言葉に否定できないランスロットは、「ぐぬぅ」と唸るしかない。
「ウェスト事務官は、そのような人物に心当たりはあるのか?」
 レイモンはまるで答え合わせをするかのように尋ねた。
「書類と共に落ちていた甘いお菓子。シャーリーと食堂にいくと、わりと顔を合わせる男がいるのです。彼はいつもデザートをいくつも食べていた、甘いものが好きな男です。彼は魔導士団黒魔法部隊、部隊長である――」

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