夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
(シャーリー)
 ポン。
(シャーリー)
 ポン。
(シャーリー)
 ポン。
 ここでも心の中でシャーリーのことを考えながら、書類に押印をする。彼女の名を心の中で呼びながら、無心になって手を動かす。
 トントントンと、扉を叩かれる音で、はっと顔をあげる。
「奥様より、書類を預かって参りました」
 セバスが戻ってきた。
「シャーリーは、何をしていた?」
「イルメラと庭の散歩をしていたようです。急いで確認してもらいたい案件があると伝えたところ、奥様は快く引き受けてくださいました」
 セバスから手渡された書類を、ランスロットは震える手で受け取った。
「奥様の方で計算し直したとのことでして、その内容はもう一枚の紙に書かれております。その通りに直せばいいとのことでした」
 セバスは腰を折ると、また部屋を出ていった。
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