夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 騎士団や魔導士団など、王城で働く者たちが常駐している建物は王城に隣接しており、事務棟と呼ばれていた。彼らは必要に応じて、王城内で仕事をこなす。
 そして、事務棟の地下に、事務官たちのいる事務室がある。事務棟と呼ばれる所以はここにある。
 事務官は騎士団専属というわけではない。魔導士団やら薬師やら医師やら、王城内で働く者たちの事務的な仕事の補佐をするのが事務官の役目なのだ。
 ランスロットの執務室は、一階の窓のない部屋だ。窓があれば、外から襲撃される恐れがあるというのが理由だからだ。一階であるのは、緊急時にすぐに駆けつけることができるようにするため。
 さらにランスロットはエントランスホールの一番奥の扉から続く場所に、執務室を構えている。
 事務官たちのいる事務室へと続く階段の隣の扉である。
 つまりランスロットは階段を下りればすぐに、事務室へ行くことができるのだ。
 あまり利用したことのない階段を、書類片手に下りていく。事務官たちは、呼び出されるたびに、この階段をあがって駆けつけてくれるのだろう。
 鍛えられた騎士であれば、階段の上り下りも苦にはならないが、事務官には女性が多い。彼女たちは、一日に何度くらいこの階段を上り下りするのだろうか。
 そんなことが気になった。
 階段を下りてすぐに扉があり、この扉を開ければ事務室である。
 その前に立ち、少しためらってから扉を叩いた。
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