夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
『だが、いい加減、専属の事務官をつけなければならないと、私も思っている』
 そう言ってジョシュアが顔を向けた先は、執務席の机の上に置かれている書類の山であった。
『性別にはこだわらない。男で手の空いている事務官はいないのか?』
『それは、もっと無理だな』
 ひらひらとジョシュアは手を振る。
『そもそも男性事務官は人数が少ない。そのため、ほとんどが専属で決まっているから、空いている事務官はいない』
『じゃ、俺の専属事務官の給金をあげてくれ』
『まあ、そういう考えもあるな。一応、考えておいてはやる』
 一応も考えておくも、当てにならないとは思いつつも、今はそれにすがるしかない。
『ところで、新しい事務官が入ったんだよな。その分、一人をこっちに回すことはできないのか?』
 ランスロットは、どうしても専属の事務官が欲しかった。魔導士団長や薬師長には専属の事務官が複数人いながら、騎士団のトップである自分に専属事務官が誰もいないとはどういうことだと思いながらも、人の好いランスロットは強くそう口にすることはしなかった。
 ただ、専属事務官求む、と関係者に依頼を出すだけである。
 もちろん、働く側の意志も尊重することも忘れない。それを尊重し過ぎた結果、誰も希望者がいないという結果に落ち着いている。
『ああ、シャーリー・コルビーのことか? 彼女はウェスト事務官からの紹介でな。すこぶる計算が得意だ。早速、私も世話になっている』
< 38 / 216 >

この作品をシェア

pagetop