夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
『その分、一人を俺に……。むしろ、彼女を俺に……』
『無理だな。彼女は、ああいった計算専属で採用している。だから、彼女が入ったからといって、他の事務官の手が空くわけではない。それに、彼女はちょっと問題があってだな』
 問題と言われてしまえば、ランスロットもその「問題」に興味を持ってしまう。
『どんな問題があるんだ?』
『男性恐怖症。しかも極度の。私だって、彼女と話をするときは、六歩以上離れなければならない。あとは、ウェスト事務官を通してやり取りをするだけだ。だが、事務官としては優秀だから、事務官室内での事務作業に徹するようにと指示を出した』
 ジョシュアの言葉で、先ほどの彼女の態度に納得がいった。
 男性恐怖症であるため、ランスロットを恐れたのだ。けして、ランスロットという個人を恐れたわけではなく、男性と一括りにされたのだ。
『そうか』
『とりあえず。ランスロット専属事務官は、それとなく探しといてやる。まあ、期待せずに待っていろ』
 結局、今日もランスロット専属事務官の件は、期待できずに終わってしまった。
 それでもシャーリーの情報を仕入れることができただけでも、有益と思わなければならないだろう。
『ランスロット、顔、怖い……』
 ジョシュアに指摘され、自分の顔がにやけていることにランスロットは気づいたのだった。

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