夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
「君も気づいていると思うが、この部屋は夫婦の部屋なんだ。つまり、俺と君の部屋……」
「はい」
 返事をしたシャーリーは、ナイトドレスの胸元をぎゅっと掴んだ。
 夫婦であり共に寝る。となれば、そういったことを求められるのだろうか。
 だが、シャーリーには無理だ。何しろ、ランスロットに触れることができない。近づくこともできない。となれば、一緒に寝ることなどできない。
「だが、君がそのような状態だから。俺は違う部屋で寝る。それを伝えたくて、ここにきた」
 シャーリーは言葉を口にせず、彼の顔を見つめる。
 ランスロットは微かに笑っていた。シャーリーを安心させようとしているのだろう。
「でしたら、私が違う部屋で寝ます。団長は身体が大きいですから、大きい寝台の方が休めるかと思います」
 その言葉にランスロットはゆっくりと首を横に振る。
「悪いが。俺にとってシャーリーは妻なんだ。愛している女性なんだ。君が寝ていた場所に、俺が一人で寝ることは耐えられない」
 そう口にした彼は、どことなく寂しそうに見えた。
「君は、ゆっくりとこの部屋で休んでくれ」
 ランスロットは立ち上がると、また壁に沿って横歩きをしながら部屋の扉へと向かっていく。
「シャーリー。その……。一つだけ我儘を言ってもいいだろうか……」
 扉の前に立つランスロットは、眉間に皺を寄せ苦しそうな表情を浮かべている。
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