夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
「どうされましたか?」
「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」
 シャーリーは思わず目を大きく見開いた。
 愛している――。
 その言葉を、偽りでありながら口にしてもいいのだろうか。
 その言葉によって、ランスロットが誤解をするのではないだろうか。
 だが、何よりもその言葉に気持ちを乗せることができない。
 嘘はつきたくない。
 ここにいるランスロットは、シャーリーの気持ちに寄り添ってくれているとは思う。だが、それでもまだ、シャーリーは彼に触れることはできないし、何よりも近づくことができない。
「それは……」
 シャーリーも言い淀む。
 口先だけ言うのは簡単にできる。だが、ランスロットは本当にそれでいいのだろうか。
「たとえ、それが私の本心でなくても、団長は嬉しいのですか? こうやって助けてくださって、感謝しております。その感謝の気持ちを伝えるのに、偽りの言葉でよろしいのですか?」
 感謝しているからこそ、嘘はつきたくない。
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