夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 ランスロットの顔が曇り、シャーリーもつい顔をしかめてしまう。
「税率については、シャーリーがいつも帳面にまとめている。そこの机の中にあるはずだ」
 そういったところは自分らしいと、シャーリーは彼の話を聞いて思った。
「それから君は、今でも事務官を続けている」
 その言葉にもほっと胸を撫でおろす。となれば、落ち着いたらまた事務官として仕事をこなすことができるだろう。
 一日中、この屋敷にいるだけでは息もつまってしまう。
「だが君は……。俺専属の事務官となっている……」
 その言葉にシャーリーは息を呑む。
(私が、団長専属の事務官? なんで……?)
「だが、こうなってしまった以上、以前と同じように事務室の仕事に携わることができないか、ウェスト事務官に掛け合っておく」
 そして「おやすみ」とランスロットは吐き出すと、部屋を出ていった。
 パタンと扉の閉まる音が、虚しく響く。
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