夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 ジョシュアはそんな彼を横目に、一人ソファに座ってお茶を飲んでいた。
「愛していると言ってくれって、シャーリーにお願いしたんだ」
 ジョシュアが「ぶほっ」とお茶を噴き出した。
「おい、ランス。お前、なんちゅうことをシャーリーに言ってるんだよ。あぁ、鼻が痛い」
「そのくらいなら、言ってくれるかと思ってだな。だけど、偽りの言葉でも嬉しいのかって聞かれた」
「さすが、シャーリーだな。彼女の言っていることは間違ってはいない」
「俺は。彼女のその言葉だけで、充分なんだ……」
「二年かけて、シャーリーはお前のことを好きになったんだろ? だったら、遅くても二年後には、また好きになってくれるのではないか? それまでどうやって彼女の心をつかんだのか、思い出してみろ」
 それ以上、ジョシュアは何も言わなかった。彼もお茶を一杯飲み終えると、「また、様子見にくるわ」と言って、部屋を出て行った。
 もしかしたら、ジョシュアが朝も早くからここに来るのは、ランスロットのことを心配しているからなのだろうか。
 ランスロットは今日のスケジュールを再確認すると、席から立ち上がった。
 本来であれば蜜月という名の結婚休暇であったのだが、シャーリーがあのような状態になってしまい、屋敷から追い出されたランスロットは、渋々と仕事を再開させている。
 たまりにたまっていた事務作業を、なんとか片付けたため、今日からは訓練にも参加しようと思っていた。
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