夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 それにジョシュアも言っていた。
『二年かけて、シャーリーはお前のことを好きになったんだろ? だったら、遅くても二年後には、また好きになってくれるのではないか?』
 彼はそうやって、落ち込んでいるランスロットを何かと励ましてくれている。アンナも同じようなことを口にしていた。
 あの二年という月日が、二人の間を近づけるために必要な時間であったことは否定できない。
 出会ったとき、彼女は二十歳でランスロットは三十歳を超えていた。十歳という年の差の壁もあったが、彼女は丁寧にランスロットの書類と向き合ってくれていたのだ。
「あ。あの、団長」
 ランスロットは思わず身体を震わせてしまった。ナイフで切り分けようとしていた肉が、飛び跳ねてしまう。すかさずセバスがやって来て、ランスロットの粗相を片付ける。
「な、なんだ」
 ナプキンで口元を拭きながら、ランスロットはシャーリーを見つめた。彼女は食事を終えたのか、ナイフとフォークは揃えて皿に上に置いてあった。
「明日から、事務官として復帰したいと思います。ですので、明日からよろしくお願いします」
 シャーリーは頭を下げる。
 ランスロットはそんな彼女から視線を逸らすことができなかった。あまりにもじっと見つめてしまったため、頭をあげたシャーリーと目が合った。
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