夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
「奥様から伝言です。明日中には修正を終えて欲しいとのことです」
「わかった。必ず終わらせるとシャーリーに伝えてくれ」
 イルメラは頭を下げて出て行った。
 ランスロットは彼女から預かった書類に視線を走らせる。シャーリーは一時間もあれば終わる内容だと口にしていた。
 いつもながら、彼女の修正案はわかりやすい。
 そして、いつものメモが無いかを探していた。
(今日もあった)
 一番後ろにシャーリーが書いた修正案の説明と共に、彼女からのメッセージが添えられていた。
 ――減価償却費の計算が間違っています。すでに七年が経っていますので、こちらの式で計算し直しました。
 そんな事務的な説明が続くが、最後には必ず書類とは関係のない一言が添えられているのだ。
 ――明日から、よろしくお願いします。ご迷惑をおかけするとは思いますが、精一杯頑張ります。
 彼女の前向きな一言だった。
 その一文から、彼女がランスロットの専属事務官として働くことを嫌がっている様子は、読み取れなかった。
 ランスロットは少しだけ顔を綻ばせる。

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