夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
 ランスロットが書類と格闘している間、彼の部下たちはあの暴漢から話を聞き出そうとしていたようだ。だが、彼は何も話さないらしい。
 ランスロットが暴漢の担当にならなかったのは、彼が命を狙われた立場であり、今回の事件に巻き込まれたのが彼の妻であるためだ。関係者は、その事件を担当することができない。
 だからこそ、もどかしかった。
 今すぐにでも、この手であの暴漢を締め上げたかった。激しく頬を殴打して、何のためにこのようなことをしたのか、問い詰めたかった。
 それは許されない。感情と理性がせめぎ合い、ランスロットを苦しめていた。
 暴漢は、まだ口を割らない。
 ランスロットの命を狙うような相手は、心当たりが多すぎてわからない。
 汚職によって失墜したあの侯爵家か、裏金横領を摘発されて潰れたあの商会か。はたまた隣国の差し金か――。
 書類に押印していたランスロットの手が、ふと止まる。
『そろそろ休憩にしませんか?』
 シャーリーの声が聞こえたような気がした。もちろん、それは気がしただけで、実際はランスロットの妄想である。
 彼にお茶を淹れてくれるような人物は、残念ながらこの部屋にいない。
 シャーリーがランスロット付きの事務官になったのも、彼女が彼の気持ちを受け入れてくれてからだ。
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