夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
第五章『ここにいてくれないか?』
◆◆◆◆

 今日からシャーリーが仕事復帰する。
 彼女が屋敷から王城に行くまでには、ハーデン家の馬車を使ってもらうことにした。また、送迎にイルメラにも同行してもらうようにした。
 これなら女子寮に住んでいないシャーリーも、安心して王城まで来ることができるだろう。
 先に執務室に来ていたランスロットは、シャーリーが使う机を隣の部屋へと運び始める。
 今までは顔をあげれば、視線の合う距離で仕事をしていたのだ。
 彼女と出会って一年後、彼女が専属事務官となった。どこかあどけなさが残る彼女であったが、仕事はそつなくこなし、特に会計関係の仕事は他の事務官よりも群を抜いて優れていた。そういったことが苦手であるランスロットにとっては、まさしく救世主であったのだ。
 それから半年後、ランスロットは彼女に告白し、清い交際を始めた。このときシャーリーを守るという口実で、婚約まで持ち込んだ。さらに、半年後、結婚をした。
 だから彼女の机はランスロットのすぐ側にあったのだ。
 今は、一年前よりも遠い場所に彼女の机を置かなければならない。一年前はこの部屋の入口の近くに彼女の机はあった。
「おい、ランス。今日からシャーリーが復帰するんだって?」
 もちろん扉をノックもせずに部屋へ入ってくるのは、ジョシュアしかいない。
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