オフクロサマ
黒目がちで少し潤んだ目は小動物的で可愛くて、つい甘やかしてしまいそうになる。


「市民プール?」


陽太は少し怪訝そうな表情だ。


この街には市民プールと大きなプールの2箇所があり、主に子供が遊ぶのは大きなプールの方だ。


そちらには滑り台もあるし、流れるプールもある。


けれど、市民プールにはそれらがない。


学校にあるプールのような、無骨な大小の水たまりがあるだけだ。


「そう、市民プール」


「どうしてぇ? どうして大きい方のプールじゃないの?」


陽太が足にしがみついてきて講義する。


「大きい方のプールは人がいっぱいで泳げないからだよ。入場するのにだって随分並ぶし」


そう言うと陽太は考え込むように黙り込んだ。


去年の夏、大きい方のプールに行ったけれど入場まで長時間またされて、陽太は少し熱中症にかかってしまったのだ。


その時のことを思い出したのか、真剣な表情でパッと顔をあげた。


「僕、市民プールに行く!」


流れるプールや滑り台がなくてもすぐに入場できる市民プールがいいみたいだ。


智香は思わずくすっと笑ってしまった。
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