オフクロサマ
「あの男性は何者かに追いかけられていたように見えました。でも、誰もいなかった」


「当たり前だ。物音を立てた人間には、その人にしか見えないオフクロサマに追いかけられて死ぬんだからな」


智香は眉間にシワを寄せて首をかしげた。


「そもそもオフクロサマってなんなんですか?」


つい身を乗り出して聞いてしまう。


「オフクロサマは俺が演じていた黒い和服の男だ。祭りのときにはオフクロサマが選ばれた人間に乗り移り、儀式を行う」


儀式とは、人形の腹部に食べ物を詰め込む、あの妙なもののことだろう。


「それって、美咲町のゴーサマと同じようなものですか?」


ようやく裕貴が声を出した。


「お前ら、あの祭りにも行ったのか」


桜は呆れ顔になっている。


「まぁ、似たようなもんだろうな。オフクロサマがどういうものかは詳しくは教えられない。それはこの村の伝統であり、簡単に外には出せない情報だ」


でも、そこを聞くことができればなにかが変わるかもしれないんだ。


智香は奥歯を噛み締めて桜を見つめた。


どうにかオフクロサマがなんであるのか聞き出すことはできないだろうか。

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