オフクロサマ
肝心な部分が不明瞭のままだったが、これ以上聞いても桜はなにも教えてくれないと判断してふたりは家を出た。


今朝ひとりの男性が亡くなっているせいか、村の中はどこか慌ただしくなっていて、人々が行き交っている。


それでもやっぱり警察や救急車が到着した様子は見られなかった。


「これからどうする?」


智香に聞かれて裕貴は村の案内板の前で立ち止まった。


誰も管理していないのか、案内板もほとんど消えかかっていて文字を読み取ることが難しい。


「一応、村の歴史を管理している資料館があるみたいだ」


案内図を指差して裕貴は言った。


地図の右下の方に消えかかった文字で資料館と書かれているのがわかった。


「こんな小さな村でも資料館とかあるんだね」


智香は思わずそう言ってしまい、慌てて周囲を見回した。


幸い周囲には誰もおらず、今の偏見じみた発言は誰にも聞かれることがな
かった。


「ここは山の中だから昔は小さな学校とかもあったんじゃないかな」


資料館を目指して歩きながら裕貴は言った。
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