オフクロサマ
「もちろん。ただ、貸し出しはしていないから注意して」


「わかりました」


ふたりは男性に案内されて廊下を奥へと進んでいく。


廊下の片側は全面ガラスの戸になっていて、もう片側には職員室やトイレとかかれた部屋が並ぶ。


「ここはもともと学校だったんですね?」


裕貴の質問に男性は少しだけ振り向いて頷いた。


「そうだよ。私の父親世代の人たちがここに通っていたんだ。昔は子供が多かったからね」


はやりそうだったのだ。


建物自体はそれほど大きくないけれど、生徒と教師がいるくらいここは活気づいていたらしい。


それもやがて道が綺麗になり、麓へ降りていきやすくなって過疎化したのだろうけれど。


「そういえば、ネットで調べてみたらこの村は廃村になったと書いてありました。あれは、そのままでもいいんですか?」


ふと思い出したように智香は聞いた。


資料館に努めているこの人なら、この村がぞんざいに扱われていることが嫌なのではないかと思ったのだ。


しかし男性は特に表情を変えることなく「あれはね、そのままでいいんですよ」と、笑った。

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