オフクロサマ
☆☆☆

桜家へと向かう途中で出会ったのは大田だった。


大田はふたりの姿を見た瞬間眉間に深いシワを寄せた。


まだなにも言われていないのに被弾されたような気分になる。


「まだ帰ってなかったのか」


突き放す言葉に一瞬言葉が出てこなくなってしまう。


「死人が出て今日は客人の相手をする暇はないんだ」


昨日までの大田さんとは別人のようなその声色に智香は思わず後ずさりをしてしまった。


あるいは昨日は自分たちのことを探っていたのかもしれない。


「わかっています。迷惑はかけないので気にしないでください」


裕貴は冷たく言い返すと智香の手を引いて再び歩き出した。


大田は軽く舌打ちをしてふたりの後ろ姿を睨みつけていたのだった。


それからふたりはほとんど会話もしないまま桜の家にやってきていた。


「なんだまたお前たちか」


数時間しか経過していないのに再び現れて智香と裕貴に桜は怪訝な顔を浮かべる。


「すみません。もう少し話を聞かせてほしいんです」


どうにか家に上げてもらうことができないと、本を入手することができない。
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