オフクロサマ
じっとりと汗が流れ出したきたとき、智香は陽太へ向けてそう声をかけた。


背の低い陽太からすれば裕貴に抱っこされている方がよほど涼しいようで、そう簡単には降りようとしない。


「ほら陽太。裕貴が疲れちゃうでしょ。プールに到着する前に疲れて、遊べなくなったらどうするの?」


その言葉にようやく裕貴から離れた。


代わりにふたりはしっかりと手を握り合っている。


裕貴からすれば子供になにかあってはならないから手をつないでいるのだろうけれど、陽太はなかのいい友達になった感覚で喜んでいる。


ひっきりなしに裕貴に話かけ、一生懸命自分について説明している。


学校のこと、宿題のこと、夏休み中でもあまり遊びに出られていないこと。


そのどれもに裕貴は熱心に相槌を打ってくれている。


そんな光景を微笑ましく思って見つめている間に会っという間にプールに到着していた。


智香の御館通り市民プールに来る人は少なくて、並ぶこと無くすんなりと入ることができた。


「じゃ、また後でね」


男と女で別れて更衣室へ向かうとき、陽太が「じゃあな!」と、偉そうな言い方をして片手を上げて見せた。
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