オフクロサマ
すでに屋台などは撤去されていて、その分広く感じられる。


ふたりは松明が焚かれ、舞台が用意されていた広場の中央へと移動してきた。


地面には舞台が設置されていたくぼみが残っているだけで、他にはなにもない。


「本当になにもないのかな」


だだっ広い広場を眺め回して智香はつぶやく。


どこかになにか位牌とか、地蔵とかがあってもよさそうなのに、そのようなものは見当たらない。


はやり村人たちが事件について隠しているのだろうか。


そう思ったときだった。


「河原を歩いてみよう」


と、裕貴が提案をした。


この熱さで体力の消耗も激しいので、少しでも涼しい場所を歩きたかった。


智香はそれに反対することなく裕貴と共に河原へと降りていった。


そこは地図で見た限り村の中で一番大きな川のようで、近づいていく清涼感に気分がよくなっていく。


透明感が強い川の流れに逆らうようにして魚が及び、背中がキラキラと輝いている。


「気持ちがいい村なのにね」


智香がポツリと呟いた。


一見すればとてものどかで自然が多く、人々の温かい村だ。

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