オフクロサマ
水で濡れた部分を手で擦っていくと汚れが落ちていく。


「ありがとう。読めるようになったよ」


現れた文字に智香が興奮気味に言う。


しかし、それは墓ではなかった。


そこに書かれていた文字は……『昭和13年。フクロダキを葬る』


「何? これ」


てっきり事件に関係する墓だと思っていた智香と裕貴は目をしばたたい
た。


これはどう見ても墓ではない。


なにかの石碑のような感じだけれど、これ以上の詳細はなにも書かれていない。


「フクロダキってどういう意味?」


「葬るってことは、人名なんじゃないか?」


裕貴が答えたそのとき、智香がハッと息を飲んだ。


この村の祭りの中で黒い和服の男が言っていた、『オフクロサマ』。


あれはてっきりこの村の母親的な存在のことだと思っていたけれど、違うんじゃないか?


『オフクロサン』とは『フクロダキ』という名前が進化して呼ばれるようになったものなんじゃないか?


「そうかもしれない。この村の人達は事件を隠したがっていた。人名を返るくらいのことはしそうだ」

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